「新学習指導要領関係」
商業教育の今後を大局的な見地から考えるための事項をまとめる。
新学習指導要領
平成29年度3月に改訂・告示される予定の高等学校学習指導要領案が平成30年2月14日に示された。
2月14日~3月15日までパブリックコメントが募集され、案から大きな変化なく平成30年3月30日に新学習指導要領が告示された。
科目の構成
以下は公表されている案を管理人が独自でまとめたものである。文部科学省から出される学習指導要領解説(もしくは解説に準じるもの)は、平成30年7月に公表される予定である。
基礎的分野 | 総合的分野 | マーケティング分野 |
マネジメント分野 | 会計分野 | ビジネス情報分野 |
改訂案 | 改訂前 | 備考 | |
---|---|---|---|
1 | ビジネス基礎 | ビジネス基礎 | ・原則履修科目 ・「生徒の実態に応じて適切な計算用語を活用することができること」 →授業で電卓の使用が可能か ・「身近な地域のビジネス」追加 |
2 | ビジネスコミュニケーション | ビジネス実務 | 再構成 |
3 | 課題研究 | 課題研究 | ・原則履修科目 ・単に資格取得のための学習をすることがないよう注意する旨の文言が追加 |
4 | 総合実践 | 総合実践 | 「ビジネス経済に関する実践」が「マネジメントに関する実践」に変更 →「ビジネス経済分野」が「マネジメント分野」に変更か |
5 | マーケティング | マーケティング 広告と販売促進 |
・整理統合 ・「マーケティング」の学習内容が増加している |
6 | 商品開発と流通 | 商品開発 | ・名称変更 ・商品の開発が目的化することを改善 |
7 | 観光ビジネス | 新設 | |
8 9 10 |
ビジネス・マネジメント グローバル経済 ビジネス法規 |
ビジネス経済 ビジネス経済応用 経済活動と法 |
マネジメント分野にすることにより現行の科目を切り口を変えて分類整理 |
11 12 13 14 15 |
簿記 財務会計Ⅰ 財務会計Ⅱ 原価計算 管理会計 |
簿記 財務会計Ⅰ 財務会計Ⅱ 原価計算 管理会計 |
多少の変更(「簿記」で特殊仕訳帳がなくなる等)はあるが大きな変更はない |
16 | 情報処理 | 情報処理 | プログラミング教育必修化の関係でプログラミングの内容が少し含まれる |
17 | ソフトウェア活用 | ビジネス情報 | 名称変更、「業務処理用ソフトウェアの活用」追加 |
18 | プログラミング | プログラミング | ・「プログラムと情報システムの開発」追加 ・実習よりアルゴリズムに重点が置かれている |
19 | ネットワーク活用 | 電子商取引 | 再構成、内容の幅を広げている |
20 | ネットワーク管理 | ビジネス情報管理 | ・名称変更、内容削減 ・システム開発の内容は「プログラミング」へ移動 ・情報セキュリティの内容が強化 |
タイムスケジュール(*1)
時期 | 出来事 | 備考 |
---|---|---|
平成26年度 | 【11月20日】初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問) | 文部科学大臣が新学習指導要領について中教審に諮問 |
【12月22日】新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申) | 中教審の答申。大学教育の転換&新テスト導入など。 | |
平成27年度 | 【1月16日】高大接続改革実行プランについて | 上記答申に対する国(文部科学省)の具体的プラン |
平成28年度 | 【8月26日】審議のまとめ(報告) | この後、パブコメ→答申と続く |
【12月21日】幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申) | 中教審から新学習指導要領の方向性が示される | |
【平成29年3月】学習指導要領(小・中学校)改訂 | ||
平成29年度 | 【2月14日】新学習指導要領(高校)案 公表 | 3月15日までパブコメ受付中 |
【平成30年3月】新学習指導要領(高校)告示 | ||
平成30年度 | 新教育要領(幼稚園)実施 | |
学習指導要領(高校)解説 公表(夏頃) | ||
平成31年度 | 「高校生のための学びの基礎診断」利活用開始 | 商業科等の専門学科は校長会等実施の検定試験で一部代替か(*2) |
平成32年度 | 「大学入学共通テスト」実施 (略称「共通テスト」、大学入試センター試験の代わりのテスト) → 調査書や推薦書の様式が変わる | 記述式問題が出題されたり、英語の4技能評価が導入されたりする。 |
新学習指導要領(小学校) 実施 | 全面実施 | |
平成33年度 | 新学習指導要領(中学校) 実施 | 全面実施 |
平成34年度 | 新学習指導要領(高校) 実施 | 年次進行 |
(*1)平成29年度以降は予定である。
(*2)「『高校生のための学びの基礎診断』Q&A」P19
平成28年5月23日 全国商業高等学校長協会「学習指導要領改訂への提言」
直接学習指導要領改訂とは関係ないが、ある程度、中教審のWGや文科省担当に力が働いていると思われる。全国商業高等学校長協会の書類ダウンロードから閲覧できる。
以下に特に気になった点についてまとめる。
- 「商業教育」を「ビジネス教育」としている現行学習指導要領を継承し発展させる。
- 「分野を「経済・経営分野」、「会計分野」、「ビジネス情報分野」の3分野とする。」
- 「総合的科目として「課題研究」、「総合実践」、「ビジネスコミュニケーション」(新科目)、「オフィススキル」(新科目)を位置付ける。」
- 新科目「オフィススキル」で電卓検定やビジネス文書検定を扱えるようにしたいようである。
- 「電子商取引」を名称変更し「e-ビジネス」とする。
- 提案する新科目や現行科目の見直す内容にまで踏み込んで言及している。
- 「ビジネス情報」を、「情報処理技術者試験へのステップアップ科目として、アルゴリズムの基礎的な内容も取り扱えるようにする。」としている。
- 「プログラミング」においてオブジェクト指向は難しいので、「発展的内容としてオブジェクト指向プログラミングを学ばせるなど、学ぶ内容と順序の整理が必要」としている。また、「なお、オブジェクト指向プログラミングは、課題研究や学校設定科目で指導することとする。」とお節介な提言をしている。
- 「プログラミング」では、「基本的なアルゴリズムの理解を重視し、発展的な学習としてプログラミング言語(手続き型のプログラミング言語)を指導することとする。」としている。これは、全商の全国大会で言語がなくなったことや、全商検定プロ部門で言語がなくなるのではないかという噂と文脈が一致する。
- ビジネス情報分野全体をIPAの3つの分野(ストラテジ、マネジメント、テクノロジ)で再構成すべきとしている。
- 全商協会として「商業教育に関する取組や施策のデータベース化」や「授業用教材の公開と活用する仕組みの構築」などの支援策を充実させたい、とのことである。ぜひ、有言実行をお願いしたい。
- 指導者育成として「副校長・教頭を対象とした研修を新設」するとしている。
- 「ビジネスコミュニケーション検定」の受験を促すため、この検定を取得していることが全商三冠以上表彰の条件とすることも検討が必要、としている。そして論理の正当化のために「従前の表彰制度の中で 示せていなかったこと」が示せる、としている。この提言の中で一番驚いた内容である。
- 「ぜんしょうくん」の着ぐるみやピンバッジを作る、としている。
平成28年5月18日 産業教育WG資料
標記会議の中で商業科に関係のある内容のまとめ。
- 観光に関する教育について、「ぜひ、次期学習指導要領に盛り込むことを検討していただきたい。」
- 「経営に関する科目がない状態なので、マネジメントに関する科目も復活させながら分野構成を考えていった方がよい。」
- 商業の専門性を薄めて外国語の単位数を含めることは、趣旨を踏まえていない手法である。
- 「教科情報と商業の情報とのすみ分けを今後考えていかなければいけない。」
- 「ビジネスにおけるコミュニケーションに関する学習の充実[総合的科目]」
- [マネジメント分野」という言葉が登場している。
平成28年8月1日 審議のまとめ(素案)
次期学習指導要領に向けた審議の素案が平成28年8月1日 中教審での会議で示された。
この素案から微調整されて審議のまとめが出され、パブコメ、そして答申、学習指導要領改定となる。つまり、この素案の内容が次期学習指導要領とほぼ同一である。
高等学校 教科「商業」に関する内容をまとめる。
文科省がまとめているポイントは上記会議の配布資料にあるので、以下は私見も含めつつまとめている。
全体的なポイント
- 「社会に開かれた教育課程」を目指す。教育課程をちゃんと作って、社会の要請に応えるということ。考える視点として「社会」をスタートして、その視点で教育課程を考えましょう、ということであり当たり前といえば当たり前のことである。社会の中での学校の地位を再定義か。
- 「カリキュラム・マネジメント」が重要。特に教科横断的な内容が必要とされている。教科間で連携した授業が今後流行になることが予想される。
- 「何ができるようになるか」、「何を学ぶか」、「どのように学ぶか」の3つの視点から学習指導要領を練り直し。文言が過去のものや他の方針とより整合性が取れたものとなる。学習指導要領が文章としてより精密になった。
- 「育成すべき資質・能力の三つの柱」(≠学力の三要素)を打ち出し、それで教科の目標を全て整理統合。目標が明確になる。なかなか大胆な取り組みである。そして、このことにより科目の目標も変わり、評価も変わり、指導要録も変わることが想定される。
- 「アクティブ・ラーニング」ではなく「アクティブ・ラーニングの視点」となる。いつの間にかアクティブ・ラーニングが「授業改善のヒントの視点」程度にソフトランディングさせられている。
- 「見方・考え方」を提供することが必要、という視点も重視される。
教科「商業」関連
- 「観光」や「ビジネスにおけるコミュニケーション」を充実させる。どこかの科目の内容に加わるのか。
- 「マーケティングと広告・販売促進に関する知識と技術の一体的な習得」とあるので、「マーケティング」と「広告と販売促進」の統合が予想される。
アクティブ・ラーニング
言葉の意味
- 中教審の答申における用語集での説明
-
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)平成24年8月28日
- 文部科学大臣の中教審への諮問での説明
-
課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)
初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)平成26年11月20日
- 「言語活動の充実」と「アクティブ・ラーニング」は同義だと考える意見もある
-
言語活動を通して思考力・判断力・表現力を育成するというのも、アクティブ・ラーニングを通してジェネリックスキルやコンピテンシー、21世紀型能力を育成するというのも、内実は同じである。
「アクティブ・ラーニングとは何か」溝上慎一(「月刊高校教育」2015年6月号P36)
学習ピラミッド(ラーニングピラミッド)の注意点
アクティブ・ラーニングと同じ文脈で下記のような図が頻繁に示されている。
「講義」では学習の定着率は5%であり、「読書」では10%、「他の人に教える」では90%である。よって、「他の人に教える」などの能動的な活動を増やした方が学習が定着して良い、ということを表している図である。そして、出典として「アメリカ国立訓練研究所」(National Training Laboratories)と付記されている。
私自身、平成26年度中に2度この図を見た。1度は県教委の指導主事から示され、1度は管理的役職の方から示された。 おそらく文科省がアクティブ・ラーニングを語ることに対して、自分たちが他の人を説得するための理論的な裏づけとして簡単な説明しやすいモデルなので用いたのだろう。
ただ、このいわゆる「学習ピラミッド(ラーニングピラミッド)」には、以下の様な意見がある。
「学習のピラミッド」モデルというゾンビ(記事紹介)(2014年1月14日 カレントアウェアネス・ポータル:国立国会図書館)
要約すると、
このモデルは何の根拠も無い。約70年前の単なる理論的なモデルで数値の裏づけが取れない。この図を使用すると発表者自身の信頼を損なう。
というものである。